タイで定番豆と言えば「ナガササゲ」ですね。
今回は、ナガササゲの育種現場を視察した時に印象に残ったことを書いてみます。

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ナガササゲは、和名で“3尺ササゲ”や“ジュウロクササゲ”と呼ばれます。
3尺とは長さの意味であり、1m近くに育つ莢から来ています。
16ササゲとは、莢の中の種子の数から来ています。

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こんな感じで割り箸と並べてみると長さが際立ちますね。
実際に種子の数を数えてみましたが、平均18個でした。

さて、、、

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育種として品種改良のために注目されていたのは、なんと「種子と種子の間の長さ」でした。
タイでは、ナガササゲをソンタムと呼ばれるパパイヤサラダに入れたりします。
この時に、地域によって若莢の中にある種子のプチプチ感を好む場合と、種子の無い部分の莢本来の歯応えを好むことがあるようです。

農業分野では、品種改良で重要とされるのは収量を左右する“量的形質”です。
量的とは、重さや長さのように数値で計測できる形質です。一方、花の色のように数値で測れない形質を“質的形質”と呼びます。質的形質は少数の遺伝子で決まるため、表現型の分離が少なく育種の方法がやや異なります。

今回の「種子と種子の間の長さ」は、一応、数値化できるため、遺伝子を見つけることができるかも知れませんね。しかし、1遺伝子で決まることはないと思います。恐らく、種子の大きさや莢の長さに関係する遺伝子が複数関与すると思います。
以前、私の知り合いの研究者がナガササゲの長さに関係する「QTL分析」をしていました。QTLとは、量的形質遺伝子座のことであり、遺伝子までは特定できずとも、遺伝子座で染色体上の位置を見つける手法です。ここでDNAマーカーの作成までできれば、今回の種子間の長さについての育種も捗りそうですね。

もし種子間の長さが1遺伝子で決まっているのであればDNAマーカーなど使わずとも、自殖の性質を生かして、表現型を見るだけでも育種が進められるかもです。
とりあえず「種子間が狭い個体」と「種子間が広い個体」のように性質が極力離れている個体(品種)同士を交雑し、F1を自殖して採取を行います。
この時、念のためF1に対して戻し交雑(Back cross)をしておくと、後々の世代促進の期間短縮につながるかも知れないのでオススメします

続いて、F2で「AA:Aa:aa = 1:2:1」の分離が観察できます。優勢ホモ(AA)と劣勢ホモ(aa)を除き、ヘテロ(Aa)を次世代で追っていくことになります。
この時、もし「種子間の長さ」が劣勢遺伝子に起因していると残念な気持ちになります、、、劣勢形質を目視の系統選抜で追っていくのは難しいからです。こんな時はDNAマーカーが欲しいですね。。。

世代更新を続けていくと、余分なヘテロ接合の表現型が消えていき、最終的に種子間の長さについて遺伝的固定が行われます。ここまできたら、新品種の完成です!
以上、簡単となりますが、育種の話でした。

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ちなみに、上記の写真のようにナガササゲには赤色の莢を持つ品種もあります。
色は質的形質であると先述しましたが、紫色はアントシアンの含有量としても測ることができます。そのため、量的形質としても測ることができるのです。

少し話が変わりますが、「緑色の莢を黄色や青色にしよう」という発想の育種は難しく、質的形質の育種とは言いません。そもそも遺伝子座や遺伝子が対象の植物に存在しない時点で交雑育種では実現不可能です。ここまできたら遺伝子組み換えですね。

それでは、また次回ッ!
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